AIを使えば、求人票の下書きを短時間で作れます。しかし、「製造スタッフの求人票を書いてください」と頼むだけでは、「未経験者歓迎」「丁寧に指導」「働きやすい職場」といった、ありふれた求人票になってしまいます。
求職者はいくつもの求人を比べます。その中から自社を選んでもらえるでしょうか。
中小企業の求人票は、「誰の、どの悩みに、何で応えるのか」を明文化してからAIに書かせましょう。 採用したい人の現在の仕事、転職で変えたいこと、自社は悩みに応えられる職場だと具体的に示すことで、AIが書き上げる求人票はぐっと良くなります。
本記事では、建設業・製造業を例に、ターゲットの整理からAIへの入力、求人原稿の確認までを紹介します。「求人票」には、ハローワークの書式に加え、求人媒体や自社採用ページの募集原稿も含めています。
1.中小企業の求人票は、「選ばれる理由」を尖らせる
大手企業は、ネームバリューや給与・福利厚生が応募の理由になります。しかし、名前を知られていない中小企業は、まずは求人票を通じて興味をもってもらう必要があります。
通勤圏とはいえ、他の中小企業の求人が無数に存在するはずです。似たような求人票で「働きやすい」「成長できる」と説明するだけでは違いが伝わりません。職場の特徴がわからなければ、給与や休日など、比べやすい項目で判断されることになります。自社でなくてはならない理由を具体的に示すのが大切です。
ここでいう「尖らせる」とは、採用したい人の具体的な悩みに、自社なら応えられると明確に示すことです。
例えば、現場から戻った後の書類作業に困っている施工管理経験者には、何を誰が分担するかを伝える。担当できる加工工程を広げたい人には、どの作業を、誰から、どのように学べるかを伝える。相手によって、訴求すべき情報は変わります。
AIに文章を整えてもらう前に、誰の・どんな悩みを・なぜ自社が解決できるかを決めましょう。それが差別化につながります。
2.採用ターゲットを、現在の仕事の悩みと転職で望む変化まで書く
「施工管理経験者」「製造業に興味がある人」「意欲のある人」を採りたい。こうしたプロンプトでは不十分です。
まず、自社で任せたい仕事と、入社時に必要な技能を確認します。そのうえで、採用したい人が今どのような仕事をし、何を変えたいと考えているかを整理します。
| 明文化する項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 現在の職場と仕事 | 業界、扱う製品・工事、担当工程、仕事の分担 |
| 今できること | 一人でできる作業、資格・技能、まだ経験していない作業 |
| 困っている場面 | いつ、どの仕事で、何が負担や不満になっているか |
| 解消しにくい背景 | 分業、教育機会、勤務体制などの事情 |
| 転職で実現したいこと | 仕事の範囲、働く時間、勤務地、収入などの希望 |
| 維持したい条件と不安 | 失いたくない条件、新しい職場で心配していること |
| 自社が応えられること | 任せる仕事、分担、教育、勤務条件、実際の運用 |
| 根拠と限界 | 確認先、記録、約束できないこと、未確認事項 |
「残業を減らしたい」を、仕事の場面まで掘り下げる
「残業を減らしたい」という希望でも、現場間の移動に時間がかかる人と、現場終了後の書類作業に追われる人では、自社が伝えるべき情報が違います。
書類作業が原因なら、どの書類を、いつ、誰が作成しているのか。自社ではその仕事をどう分担しているのか。ここまで整理すると、求人票で説明する内容が見えてきます。
あわせて、転職しても維持したい条件を聞きましょう。残業を減らしたくても、収入が大きく下がれば転職をためらう人もいます。希望する変化と、失いたくないものを一緒に捉えることが必要です。
まだ確認できていない悩みは「仮説」として扱います。同じ職種の全員に、同じ不満を当てはめないようにしましょう。
当事務所のこだわり|任せる仕事と、教えられることをそろえる
建設会社や製造会社で人材採用・育成に関する支援を経験してきました。求人原稿を考える際は、入社後に任せる仕事と、教育体制も確認します。必要な技能と、働きながら新たに覚えられる技能を分け、求職者が応募に値するかを判断できるまで昇華します。
3.悩みと自社の強みを取材で確かめる
ターゲットの悩みを考えるとき、手がかりになるのが最近入社した社員の声です。
「前職で何に困っていたか」「なぜ当社へ応募したか」「入社後に何が変わったか」を聞いてみましょう。自社では当たり前だと思っていた分担や教え方が、その人にとっては入社の決め手だったかもしれません。
社員の感想に加え、現場の体制と募集条件も確認します。
| 確認する相手・記録 | 聞くこと |
|---|---|
| 最近入社した社員 | 前職の悩み、応募の決め手、入社前後の認識の違い |
| 現場責任者 | 任せる仕事、分担、教えられる作業、教育の進め方 |
| 面接・内定時の記録 | 繰り返し受けた質問、判断の前に残っていた不安 |
| 給与・勤務条件の担当者 | 提示できる条件、手当の前提、勤務・休日の運用 |
集めた情報は、「悩み → 解決できる根拠」の順につなぎます。
例えば、「脱着と測定だけでなく、段取りも学びたい」という人に対して、「スキルアップできます」と書くには、実際に教えられる体制が必要です。指導担当は誰か、勤務時間内に学ぶ機会があるか、担当を広げる際に何を確認するかまで聞きましょう。
「確認済みの事実」「ターゲットについての仮説」「未確認」を分けて記録すると、AIに渡すときも混同を防ぎやすくなります。
建設・製造の職種別の考え方は、建設業の採用支援先の選び方と、製造業の採用支援先の選び方でも解説しています。
当事務所のこだわり|選ばれる理由を相手の言葉から見つける
EC会社では、レビューを分析し、商品の訴求内容を見直してきました。採用でも、「なぜ応募したか」「前職と比べて何が変わったか」という働く人の声を確かめます。AIに安易なプロンプトを投げる前に、声と実際の仕事・制度を整理します。
4.明文化した情報を渡すと、求人原稿はどう変わるか
機械加工経験者の募集を例に考えてみましょう。
以下は、入力する情報と求人原稿の関係を示す例です。実際のAI出力を比較した実験や、当事務所の改善実績ではありません。また、仕事内容と教育についての部分原稿であり、募集条件をそろえた求人票の完成形ではありません。
漠然とした依頼では、誰に向けた求人かが伝わりにくい
例えば、AIに次のように依頼するとします。
金属部品メーカーのNC旋盤オペレーターの求人票を作成してください。経験者歓迎、スキルアップできる職場として紹介してください。
この依頼に含まれる情報だけでは、次のような一般的な説明にとどまる可能性があります。
NC旋盤オペレーター募集。経験を活かしながらスキルアップできる職場です。先輩社員が丁寧にサポートします。
どの作業ができる人を募集し、入社後に何を学べるのか。その判断に必要な情報がありません。
ターゲットと、自社が応えられることを文章にする
原稿を作る前に、次のような文章を用意します。
採用ターゲットの仮説
現在、金属部品の量産工場で、NC旋盤の部品脱着と寸法測定を担当している人。二つの作業は一人でできるが、工具交換や段取りは別担当のため、学ぶ機会が少ない。
今の経験を活かし、加工の準備にも関われるようになりたい。ただし、段取り未経験で転職すると、最初からできることを求められるのではないかと不安がある。給与水準と通勤条件も確かめたい。
この架空例で、自社の事実として設定すること
入社時に必要なのは、部品の脱着と寸法測定を一人でできること。段取り経験は必須にしない。
入社後は製品と作業手順を覚え、現場責任者が技能を確認する。勤務時間内に、指導担当と工具交換・段取りを学ぶ機会があり、習熟を確認してから担当範囲を広げる。
ここに、給与、勤務時間、勤務地などの確認済み条件も加えます。確認できていない項目は「未確認」と記し、AIが埋めないようにします。
その人が判断できる求人原稿へ落とし込む
これらの情報を渡し、「担当工程を広げたい人が、応募できるかと教わり方を判断できる原稿にしてください」と依頼します。盛り込みたい内容は、次のようになります。
脱着・測定の経験を、次は段取りへ。
NC旋盤での部品の脱着と寸法測定を一人でできる方を募集します。段取りの経験は問いません。
入社後は、当社の製品と作業手順を覚えることから始めます。技能を確認したうえで、勤務時間内に指導担当と工具交換・段取りを学び、習熟に応じて担当を広げます。今の経験を活かし、加工の準備にも関わっていきたい方をお待ちしています。
「経験者」の範囲が分かり、段取り未経験でも応募できること、入社後にどう学ぶかも伝わります。相手の希望と不安に、自社の具体的な事実で答えた文章になっています。
職種名欄には「NC旋盤オペレーター」など、仕事が分かる名称を使い、訴求文は本文冒頭などに置きます。給与や通勤条件への疑問には、募集条件欄で答えましょう。
施工管理や製造未経験者にも応用できる
同じ手順で、相手の悩みに合わせて説明を具体化できます。次の例も、同じ実態があることを確認して使う前提です。
| 対象者の悩み | 求人原稿へ反映する部分例 |
|---|---|
| 施工管理経験者:現場後の書類作業を一人で抱えたくない | 工事写真の撮影と確認は施工管理担当、所定様式への整理は事務担当が分担します。 |
| 製造未経験者:作業を覚えられるか不安 | 食品の包装工程で、印字確認から始めます。衛生・安全の基本を学び、指導担当と作業を確認しながら、担当する作業を増やします。 |
分担を紹介するときも、それだけで「残業がなくなる」とは言えません。原稿に書く約束は、確認できた事実の範囲にそろえます。
5.そのまま使える、AIへの依頼文
整理した内容を、次のひな型に入力して使ってください。まず1職種から始めると、情報を集めやすくなります。
以下の情報をもとに、求人原稿の下書きを作成してください。
【採用したい人】
・現在の職場と担当業務:
・一人でできる作業、資格・技能:
・仕事で困っている具体的な場面:
・その悩みが解消しにくい背景:
・転職で実現したいこと:
・維持したい条件、新しい職場への不安:
【当社が提供できる仕事・環境】
・任せたい仕事と担当範囲:
・入社時に必要な技能:
・入社後に教えられることと、その進め方:
・ターゲットの悩みに応えられる具体的な事実:
・その事実の確認先、根拠:
・約束できないこと:
・雇用形態、給与、勤務時間、休日、勤務地などの条件:
【掲載先と応募方法】
・媒体名、入力欄、文字数:
・応募方法、必要書類、選考の流れ:
各情報に「確認済み」「仮説」「未確認」を付けています。
重要な不足情報や矛盾があれば、原稿を書く前に質問してください。
回答後、確認済みの事実を使って作成してください。
仮説は訴求を考える参考にとどめ、求職者全員に当てはまる事実として書かないでください。
未確認のまま下書きを依頼した場合は、その箇所を[要確認]としてください。
入力にない給与、制度、勤務条件、数値、実績は追加しないでください。
対象者が「今の経験をどう活かせるか」「転職で何が変わるか」を判断できる順に説明してください。
「働きやすい」「成長できる」などの抽象語は、担当業務・分担・教育の進め方などで具体化してください。
一般的な美辞麗句を重ねず、その人に伝えたい内容を絞ってください。
掲載先の入力欄に合わせて、次の内容を整理してください。
1.職種名
2.冒頭の2〜3文
3.仕事内容と分担
4.入社後の仕事・教育の進め方
5.応募条件
6.給与・働き方などの条件
7.会社・職場の特徴と根拠
8.応募・選考の案内
最後に「対象者のどの悩みに、どの事実で応えたか」を表にしてください。
公開前に確認する項目は、求人原稿と分けて示してください。
手元の情報が少なければ、先にAIへ「考えられる悩みの仮説と、社員や現場責任者に確認する質問を挙げてください」と頼んでもよいでしょう。回答を取材の手がかりにし、確かめた内容を入力し直します。
AIが挙げた魅力や制度が、自社にもあるとは限りません。会社が約束できる仕事と条件は、社内で確認して決めます。
6.出力された原稿を、仕事の実態と募集条件に照らす
AIが出力したら、次の分担で確認します。
| 確認する人 | 主に確認すること |
|---|---|
| 現場責任者 | 担当業務、分担、教育の進め方が実態に合っているか |
| 条件を決める人 | 給与・勤務・休日・契約などの記載が正しいか |
| 採用窓口 | 採用したい人の疑問に答え、応募判断に必要な情報を示せているか |
募集条件は、給与額や休日数だけでなく、手当の支給条件、試用期間中の違いなども確認します。業務・就業場所の変更範囲、有期契約の更新基準なども明示事項に含まれます。固定残業代がある場合の記載も含め、厚生労働省の公式資料と照合してください。
本記事のひな型は、訴求と原稿の構成を整理するためのものです。必要な明示事項をすべて列挙した一覧ではないため、掲載先の入力欄と併せて確認します。
求人票と採用ページの説明もそろえましょう。教育の進め方を求人票で伝え、採用ページでは指導担当や作業の様子を紹介すると、求職者が働く姿を具体的に考える材料になります。
掲載後の見直しに備え、原稿とともに、AIへ入力した文章、情報の確認先、変更日、掲載先を残します。分担に迷う場合は、採用担当者がいない中小企業の採用の進め方も参考にしてください。
当事務所のこだわり|次の募集でも使える材料を残す
EC企業で、マーケティング手法のマニュアル化や社内展開、新人への指導を経験しました。採用でも、原稿とともに、ターゲットを明文化した文章、情報の確認先、AIへの依頼文を残します。仕事や条件が変わっても、担当者が見直せる形を重視します。
7.応募者の反応から、ターゲットの理解を深める
求人票を書き換えた後は、応募数に加えて、誰に何が伝わったかを確認します。
- 求人詳細の閲覧数と、応募開始・完了数。
- 必須条件を満たす応募者数。
- 応募の理由と、仕事内容の理解。
- 面接で残っていた疑問、確認できた辞退理由。
例えば、段取りを学べることに関心を持っても、教わる時間や担当者が分からなければ、不安が残るかもしれません。面接で繰り返し聞かれることは、求人票で先に答える情報として補います。
比較する際は、職種、掲載期間、媒体、広告条件なども記録します。応募が少ない段階の変化を、文章だけの効果とは決めつけないようにしましょう。
閲覧自体が少ない場合や、応募手続きで止まっている場合は、ほかの箇所も点検します。採用のカスタマージャーニーと改善策では、入社に近い段階から採用活動を見直す手順を説明しています。
よくある質問
ターゲットを絞ると、応募が減りませんか?
関心を持つ人の範囲が変わる可能性はあります。自社が必要とする技能や仕事への適合を踏まえ、応募数と、必要な条件を満たす人との接点を併せて確認しましょう。伝えたい相手を具体化しても、不要な応募条件を増やす必要はありません。
自社に特別な強みが見つからない場合は、どうすればよいですか?
最近入社した社員に、前職と比べて何が変わったかを聞いてみてください。自社では普通の分担や教え方が、その人に価値を持つ場合があります。希望に応えられる実態がなければ、職場の改善や、採用ターゲットの見直しも検討します。
ターゲットや悩みの分析もAIに任せられますか?
仮説づくり、取材質問の整理、文章化は手伝わせられます。現場の事実や会社が約束できる条件は社内で確認し、仮説と区別して渡しましょう。
給与や休日が大手に及ばなくても、求人票を改善する意味はありますか?
仕事内容、分担、勤務地、教育など、相手が重視する情報を具体化する意味はあります。ただし、本人にとって必要な収入や勤務条件を満たせない場合は、表現の工夫だけでは解決しません。条件の改善と、伝える内容の充実を併せて考えましょう。
採用したい人と、自社が選ばれる理由を一緒に整理する
砂川大輔事務所では、建設業・製造業の中小企業に向けて、採用したい人の整理、現場への取材、求人票・採用ページの制作改善、担当者育成を支援しています。
現在の求人票をもとに、誰のどの悩みに応えられるかを整理し、AIでも活用できる文章へまとめます。求人原稿と、その根拠になる情報を残すことで、次の募集にも取り組みやすくします。
支援内容・料金プラン・サービス説明資料をご覧ください。受付再開の通知を希望される方は、再開通知フォームをご利用いただけます。
著者:砂川大輔
砂川大輔事務所 代表。内閣府プロフェッショナル人材活用ガイドブック3度掲載。富士通・アマゾンジャパンの正社員として経営戦略やマーケティングに従事。経験を活かし200社超の中小企業の事業に伴走。建設業・製造業の引き合いが多く、採用計画から制作・情報発信・担当者育成まで支援する。1級土木施工管理技士補、甲種危険物取扱者、甲種火薬類取扱保安責任者、第一種衛生管理者、PRプランナー、内部監査士など、建設・製造業の採用に関する資格を保有。

