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採用コラム

採用力は「企業の実態×伝える力」 欲しい人材に選ばれる会社の磨き方

求人票を書き直す。採用サイトを整える。会社の魅力を伝えるために、できることは数多くあります。そのとき、確かめたいのが「入社した人に、実際に何を提供できるか」です。

私は、採用力を「企業の実態」と「伝える力」の掛け算で考えています。実態を磨く際の基準になるのは、採用したい人が会社を選ぶときに重視する項目です。

給与を重視する人もいれば、仕事の社会的な意義、生活時間、技能を広げる機会を大切にする人もいます。その人が価値を感じる魅力を高め、伝える。これが、採用の土台です。

この記事では、建設業・製造業の中小企業に向けて、会社の何を伸ばし、どう伝えるかを解説します。

採用力は「企業の実態×伝える力」で考える

企業の実態とは、そこで働く人が経験する仕事や条件と、それを支える事業の状態です。社会性、収益性、労働環境、やりがい、給与などが含まれます。

伝える力とは、その価値を必要とする相手へ、理解・比較できる形で正確に届ける力です。求人票の文章、採用サイトの写真、社員の説明、面接での受け答えなどが、その役割を担います。

例えば、未経験者に仕事を教える体制があり、社員が着実に技能を身につけている会社を考えてみましょう。求人に「未経験歓迎」としか書かれていなければ、応募者は誰に何を教わり、どう仕事を覚えるのかを判断できません。実態の良さが、十分に伝わっていない状態です。

一方、「丁寧に教えます」と強く打ち出しても、現場に指導する人や時間がなければ、入社後の体験は説明から離れてしまいます。

実態を充実させ、その実態を必要とする人へ届ける。 この二つを合わせて考えるために、私は「掛け算」という言葉を使っています。

求職者によって、会社を見る物差しは違う

採用したい人は、自社のどこを評価するでしょうか。まず、企業の実態を次のように整理してみてください。

評価項目求職者が確かめたいことの例会社が確認する材料
社会性自分の仕事は、誰の生活や事業を支えるのか製品の使われ方、工事の役割、顧客や地域への貢献
収益性事業を続け、設備・教育・待遇へ投資できるか収益の仕組み、受注の継続性、実際の投資
労働環境無理なく、安全に働き続けられるか勤務時間、現場の範囲、業務分担、安全対策、休暇の運用
やりがい技能や判断を活かし、役割を広げられるか担当工程、裁量、学ぶ機会、役割と評価
給与必要な収入を確保し、貢献に応じた報酬を得られるか基本給、手当、賞与の実績、昇給・評価の仕組み

これらの重みは、人によって異なります。

例えば、長期出張を減らしたい施工管理経験者には、現場の範囲が重要な判断材料になります。機械操作から段取りへ技能を広げたい加工経験者なら、担当できる工程や教育の時間が気になるでしょう。

収入を維持したい人にとっては、基本給に加え、残業や夜勤の手当がどう変わるかも大切です。「やりがいがあります」という説明だけで、必要な収入への不安を解消できるとは限りません。

また、収益性の高さが、そのまま社員の待遇の良さを意味するわけでもありません。利益を設備、教育、給与などにどう振り向けているかまで確かめる必要があります。

会社が誇りに思うことと、採用したい人が入社を決める理由が、同じとは限りません。 求職者の立場から、評価する項目とその優先順位を考えましょう。

欲しい人材が重視する項目から、実態を伸ばす

欲しい人材の評価項目が分かると、会社のどこを改善するかも考えやすくなります。

最初に、任せる仕事と必要な経験を定めます。次に、その人が転職で何を変えたくて、何を維持したいのかを具体化します。社員の入社理由や、応募者からの質問、確認できる辞退理由も手掛かりになります。

そのうえで、相手が重視する点と、自社の現状を並べます。以下は、改善の方向を考えるための例です。

採りたい人の例重視する項目実態を伸ばす取り組みの例
帰社後の書類負担を減らしたい施工管理経験者労働環境・生活時間写真整理や書類作業の分担を見直す
機械操作から段取りへ技能を広げたい加工経験者やりがい・技能習得指導役と教育時間を確保する
残業への依存を減らし、収入を確保したい人給与・生活時間継続できる原資を確認し、基本給・評価・業務運営を見直す

教育の充実を訴求するなら、指導する人を決め、教える時間を業務の中に確保する。生活時間を確保できる職場を目指すなら、仕事の分担や段取りを変える。こうした実態の改善があって、伝えられる内容も充実します。

限られた経営資源の中では、伸ばす項目の優先順位が必要です。必要な安全対策や適正な労働条件を土台にしつつ、採りたい人が特に大切にする点から改善を考えます。

欲しい人材の評価項目は、何を伝えるかと、会社の何を伸ばすかを決める手掛かりになります。

ターゲットを具体化する方法は、「AIで質の良い求人票をつくる」でも解説しています。

企業の地力を育てる支援が、採用力にもつながってきた

私は、これまで200社以上の企業に対して、採用に加え、営業、マーケティング、広報、オペレーションの高度化、商品企画、顧客体験の向上、内部統制など、さまざまな支援を行ってきました。

これらは、企業の実態、すなわち「地力」を育てる活動です。その中で、企業の地力が向上したからこそ、採用力が強化される事例を数多く経験してきました。

企業機能の強化と採用のつながりを考えると、理由が見えてきます。

営業やマーケティングを改善し、利益を確保できる仕事を増やすことは、教育や待遇へ投資する余地につながります。商品企画や顧客体験を磨き、顧客から選ばれる理由が明確になると、社員も自分たちの仕事の価値を説明しやすくなります。

オペレーションを高度化し、手戻りや特定の人への業務集中を減らすことは、働き続けやすい職場づくりに関わります。内部統制を整え、役割や確認の仕組みを明確にすることも、安心して仕事に取り組める環境を支えます。広報は、そうした取り組みと価値を社外へ伝える役割を担います。

もちろん、利益が増えれば自動的に給与が上がるわけではありません。業務に余力が生まれたときに、教育へ時間を振り向けるかも、経営の判断です。地力の向上を、社員が経験する仕事や条件へつなげていく必要があります。

こうした経験から、私は採用の課題を考える際も、事業の仕組みや現場の仕事に目を向けます。どのように価値を生み、利益を確保し、社員がどんな仕事をしているのか。その理解が、自社を選ぶ理由を育て、伝える出発点になります。

「ない袖は振れない」。背伸びした訴求が信頼を削る

砂川大輔事務所は、「質実剛健」を旨としています。

「ない袖は振れない」「背伸びは身を亡ぼす」。私は、採用にもこの考え方が当てはまると考えています。

例えば、指導する人も時間も決まっていないのに「充実した教育体制」と書く。特定の社員だけが利用できる働き方を、誰にでも適用される条件のように紹介する。検討中の制度を、既に使える制度として掲載する。こうした表現は、入社後の体験との隔たりを生みます。

本人がその条件を重視して入社していれば、失望も大きくなるでしょう。「教えてもらえると思っていたのに」「この働き方ができるから選んだのに」という思いは、会社への不信につながります。

だからこそ、次の三つは区別して伝えます。

  • 現在の実態: 今、誰に、どのような条件で提供できるか。
  • 決定済みの変更: いつから、誰を対象に、何を変えるか。
  • 将来の目標: 何を目指し、現在どこまで取り組んでいるか。

改善や挑戦の目標は、目標として語れます。その際も、現在の働き方を正確に説明し、応募者が入社後の生活を判断できるようにします。

入社した人に「説明どおりだった」と思ってもらえるか。その視点で、求人の文言を確かめましょう。

前職で見てきた、レビューが残す影響

私はEC企業に勤務していたとき、悪いレビューがついて伸び悩む商品を数多く見てきました。

購入した人の体験は、その商品を次に検討する人の判断材料になります。この経験から、私は、伝えた内容と実際の体験の差を軽視してはいけないと考えています。

採用でも、入社した人の体験は、その後に会社を検討する人へ伝わり得ます。

例えば、OpenWorkでは、社員による会社評価や、入社後のギャップ、働きがい、退職を考えた理由などが共有されています。会社が出す求人や採用サイトに加え、実際に働いた人の声も、求職者が比較する材料になります。

会社名を調べる過程では、Googleマップの口コミなどの外部評価に触れることもあります。社員口コミサイトとは用途や投稿ルールが異なりますが、公式の説明と社外の声を並べて確かめられる環境にあることは、意識しておく必要があります。

求人で伝えたことと、入社後の仕事が大きく違う。その不信が「嘘つき企業だ」という受け止めにつながれば、今回の採用だけでは済まないおそれがあります。次の応募者が会社を調べ、応募をためらうきっかけにもなり得るからです。

一人が早期に退職すれば、再募集や教育のやり直しが必要になります。そこへ会社への不信が重なると、次の採用を進める負担も増します。人手不足に苦しむ中小企業にとって、こうした信用の損失は、事業の継続にも響きかねません。

口コミには、投稿者の主観や在籍時期、部署による違いもあります。一つの投稿だけで会社全体の実態が決まるわけではありません。それでも、自社が伝える内容と実態を確かめ、説明によって生じる期待に責任を持つことはできます。

実態を磨き、その変化を確かめて伝える

実務では、まず一つの職種を選び、次の順序で取り組みます。

  1. 採りたい人と仕事を定める。 必要な経験と、入社後に任せる仕事を整理します。
  2. 重要な評価項目を確かめる。 転職で変えたいこと、維持したい条件、譲れない点を具体化します。
  3. 現状を確認し、改善を決める。 現場の話や記録を確認し、改善する内容と担当者を決めます。
  4. 改善を実行し、運用を確かめる。 制度の名前だけで判断せず、誰がどのように使えているかを見ます。
  5. 根拠をそろえて伝える。 仕事の流れ、写真、担当者の説明、記録を使い、求人票・サイト・面接へ反映します。
  6. 入社後の体験から見直す。 説明と違った点や、役に立った情報を聞き、職場と説明の両方へ戻します。

例えば、施工管理者の書類負担を減らすために分担を変えたなら、実際にどの作業を誰が担うようになったかを確認します。勤務時間の変化を伝える際も、対象となる職種や期間をそろえて記録を確かめます。

「働きやすくなりました」とだけ書くよりも、仕事内容と変化が分かる説明にできます。

すべての改善が終わるまで発信を待つ必要はありません。今、提供できている強みは具体的に伝え、改善中の点は状況を説明します。運用が変わったら、求人票、サイト、面接で使う説明を一緒に更新しましょう。

説明と体験をそろえる考え方は、「採用力を高める『整合』の考え方」で詳しく扱っています。

企業の実態と採用について、よくある質問

給与をすぐに上げられない会社は、何から取り組めばよいですか?

採りたい人が必要とする収入と、ほかに重視する条件を確かめます。そのうえで、現在の条件が合うか、どの実態を改善できるかを考えます。給与の改善が必要なら、その原資を生む事業や業務の見直しも検討します。

会社の弱みも、すべて求人票に書くべきですか?

入社の判断に影響する仕事内容、条件、負担は具体的に説明します。例えば、暑さ、重量物の扱い、出張などがあるなら、その実態と対策を伝えます。求職者が自分に合うかを判断できる情報をそろえることが大切です。

改善中の取り組みを、採用広報で紹介してもよいですか?

現在の運用と目標を区別して紹介できます。どんな課題に取り組み、何を実施し、どこが未完了なのかを具体的に伝えます。導入が決まった制度も、対象者や開始時期を明示しましょう。

質実剛健な採用支援で、選ばれる理由を育てる

採用したい人が大切にする項目と、自社の現状を並べてみてください。既に応えられること、改善できること、今は約束できないことが見えてきます。

そこから企業の実態を伸ばし、提供できる価値を具体的な言葉で伝える。企業の地力と伝える力を一緒に磨くことが、当事務所の考える質実剛健な採用支援です。

砂川大輔事務所では、幅広い企業機能を支援してきた経験をもとに、事業と現場を理解し、採用ターゲットの整理、求人票・採用サイトの制作、情報発信、担当者育成まで一貫して対応します。取材で見えてきた実態や改善が必要な点を経営者と共有し、根拠のある説明へつなげます。

社内で制作・発信を続ける人を育てる考え方は、「採用担当者の育て方」でも紹介しています。

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著者:砂川大輔
砂川大輔事務所 代表。内閣府プロフェッショナル人材活用ガイドブック3度掲載。富士通・アマゾンジャパンの正社員として経営戦略やマーケティングに従事。経験を活かし200社超の中小企業の事業に伴走。建設業・製造業の引き合いが多く、採用計画から制作・情報発信・担当者育成まで支援する。1級土木施工管理技士補、甲種危険物取扱者、甲種火薬類取扱保安責任者、第一種衛生管理者、PRプランナー、内部監査士など、建設・製造業の採用に関する資格を保有。

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